Screwball Diary

Screwballは変わり者、奇人を意味する。

43歳で冒険家が命を落とす話と、柳沢きみお「未望人」の類似性

president.jp

はてなブックマークでこの記事が上位に挙がってきていた。

要は

・年齢を重ねるにつれ、経験も知識も増え、やりたいことのスケールもでかくなる

・しかし、体力の衰え、気力の衰えを感じ始めるのもこのころ

・結果、まだ体力・気力のあるうちの「今に」やりたいことをやろう

で、肉体能力の衰えを自覚しつつも、その能力ではカバーできないことをやろうとして遭難する・・・

ということである。

 

で、これで奇妙に思い出したのが、タイトルにも書いた柳沢きみおの漫画「未望人」である。思い出してアマゾン・キンドルで買ってしまった。(各巻297円 全2巻 2022年4月18日現在)

www.goma-books.com
あらすじにもある通り、35歳で課長に昇進という、全国展開企業で早めの昇進を果たしながら、ひたすら虚しさと寂しさを感じる主人公・中上登。その心の隙間に忍び寄るように、部下で社内一の美人OL・二葉由美と深い関係になるが、やがて家庭にも会社にも二人の不倫関係が明らかになり、由美は会社を辞め帰郷・結婚し、登は京都支店に左遷されるが・・・

という、ミッドエイジ・クライシス(中年の危機)を描いた漫画である。

1986年「週刊現代」に連載されたもので、単行本は全2巻。

 

中上は住宅ローンで東京・多摩地区に家を購入しており、妻と子供二人がいる生活である。「千円亭主」と自嘲的につぶやくシーンもあり、たぶん一日に自由に使える金額は千円か。妻は近所の奥様方との付き合いと称して英会話・テニスを始めるなど、日々疲れ切っている(通勤だけで4時間)夫をいたわっているとは思われない。日曜日は家庭「サービス」に勤め、体の疲労が月曜日になっても抜けきれない。これが定年まで続くのか・・・というのが中上の虚しさの原因の一つでもある。

なまじ35歳で課長になり、出世も社内では早め、ということが、自分の今後の人生の意味を考える契機になってしまった。

冒険家が40代になって体力・気力の衰えを自覚してしまうのと似ているのだ。

自覚をせざる、を得ないということが。

中上は良き父親、よき夫であろうとしていた。しかしその虚しさ・寂しさという心の隙間に、やはり恋人と別れて心の隙間ができた由美と互いに引き寄せ合ってしまう。

女性の場合、「出産する年齢」に限りがあるため、そこから結婚年齢も逆算するという、ある意味冷徹な計算があるので、結婚・出産すれば、このような虚しさを覚える可能性は男性ほどではないがー特に子育てすれば、子育てに忙殺されるのでー、会社での成功・出世を目的にする男性がそれだからこそ、成功しても失敗しても、虚しさ・寂しさを感じるのではないか。

冒険家も似たような寂しさを感じるのかもしれない。

今後衰えていくであろう自分の肉体・気力を自覚して。

 

「未望人」の方は、京都支店の同僚・山形課長との出会いと別れ、山形に紹介されたモーニングコールサービスのアルバイトの女子大生・淳子とひょんなことからデートなど、物語が進みながらも、日々、脳裏に由美との記憶がよみがえり、狂おしい気持ちに懊悩していく。そして耐え切れなくなった中上は由美の故郷・山口に向かうのだが・・・

 

連載時期が1986年と古く、また題材が題材だけに、ネットでのレビューも少なく、あっても否定的なものが半分くらいだが、肯定的な下記の論評もある。公にはいえないものの、日本のサラリーマンの心の奥底を刺激するものがあるのではないか。

blog.livedoor.jp

私個人は年齢でどうこう考えるタイプでもなく、独身だから立場も何も違うが、いろいろと考えさせる作品だった。1986年、まだ10代だった時に読んだ頃よりも。

 

ちなみにこれが「はてなブログ」のデビューです。今後ともよろしく。(気まぐれ更新)